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録。


by akkohapp
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3月19日

3月も半ばだというのに、暗くなった帰り道の坂を北風かすごい速さで私を追い越してゆく。
合わないヒールの足が痛い。NYはまだ明け方の6時だ。

電車の中で携帯のメール送信履歴を読み返してみたら、
送ったメールのほとんどが英語だった。
こんな小さな機械から送られた文字が、
軽々と海と時差を超えてあの大都会に住む彼の元へ届くというのに、
自分はこうして今日も疲れた顔を乗せた電車の一部になっているだけだ。
現実的なところ、パスポートの有効期限も切れている。

考えてみれば、いつもいつも時差の向こうにいる誰かのことを想っている。

最近の民族論の中には、民族の記憶、という新しいカテゴリーが生まれたらしい。
同じ風景を見、同じ文化、同じ時代を共有した者は同じ記憶をたどる、という。
ものごとに対して、光を当て、記憶としてとどめておく箇所が一緒、ということか。

自分にはそういう光の焦点が定まらず、地球のどこかが夜の時、その反対側は朝、
という生き方をずっとしているような気がする。
隣の芝は青い、よりももっと強いその距離を隔てるものへの執着は、
気がつけば私の中に根を張って、こんなにも大きく立派な木になってしまった。

記憶が始まってからの私の人生は、いつも一つの国の内と外があり、
そういえば天気予報も、時報も、ニュースも、いつも二つの国のものを見ていた。
半そででアイスクリームをなめながら、
12月の東京の地図の上に雪だるまマークがつくのを見た。
アイスクリームが涙の熱さで溶けていた。
Nyの美術館では、込み合う渋谷駅の写真を見て、
ものすごい慕情と一緒にそこから20分離れられなかった。
そして今は、ただただ13時間の時差の中で眠る彼の肌色を思い出し、
その中に溶けられればいいのに、と思っている。

本当の本当のダブルスタンダードで生きると決めることは、結構な決心と覚悟が必要なものだ。
アイデンティティーも、言葉も、見る風景や、ファッション、人との距離のとり方、
全部がバラバラな中で、どんなスタンスで生きてゆくか。
そのバランスをとるのには、結構オトコマエでかつエレガントな決心が必要だと思うのだ。

けれども、そんな潔く、繊細な決心の中で、私はいき続けてゆきたい。
そんな二つの車線を、愛車を転がしてずっとずっと海まで、砂漠まで、森まで、走りたい。
疲れたら彼に運転してもらおう。
そうやってずっと、一つの道よりも、二つの道から、もっとたくさんの場所から、
風景を見えることを楽しみながら、私は私の道を刻もう。
by akkohapp | 2007-11-02 12:02 | 花鳥風月