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Dear Messenger

ひょんなことから、まだ寒かった4月の新宿御苑のお花見でお会いして、
名刺を交換した人と、彼の持っている不動産の話をするために会うことになった。

皇居の周りの柳が、暑さでしょんぼり萎れるような午後、
帝国劇場の地下街にあるとても美味しいウナギ屋さんで待ち合わせて
お互い、この人だっけな・・・とちょっと確認し合いながら
ほぼ初対面の趣の再会を果たすと、ぎくしゃくと不動産の話をした。

ウナギは尾を少し折らないと箱からはみ出るくらい大きくて、
そこに白木の箱に入っている山椒をふってみると
ふんわりとした身から、はちみつを使っているというほんのり甘いタレが
湯気を通じて顔中の毛穴から香ばしさを伝えるようだ。

あんまりウナギが美味しいのと、
多分お互いあまり不動産やお金のことについて話したい人間ではないことに
早々と気がついたからだろう、ウナギをひとしきり褒めあうと
話はなんとなくお互いのことに移った。

今はもう2社目の金融機関で働いている彼から
全くハードコア金融人の臭いがしないので、
以前から金融のお仕事をされていたんですかと尋ねると、
ぷっと吹き出して、全然、と笑顔で答える。

「天津甘栗、って知ってる?」

「え、あ、はぁ、あの駅前で売ってる?」

「そう、あの駅前で売ってる。」

子どもの頃、冬になると、お母さんがおやつに買ってくれた
黄色い文字が書かれた赤い袋に入った可愛らしい栗を思い出す。

「あの、栗をね、僕、売ってたの、アメリカで。」

アメリカで天津甘栗を見たことがなかったので、驚いてしまう。

「オヤジがやってた仕事で。小さい商社でね。で、オヤジが死んだから
僕が継いだんだけど、それはもう大変だったよ。」

「栗だよ、栗。でも栗っていっても奥深くてね、やっぱり素材が
大事だから鮮度を保たないといけないんだけど、微妙な冷蔵温度とか
本当に大変。栗も生ものだから。」

そうして、その人は真剣な目をして、いかに天津甘栗の命となる
栗を選別することが難しいことかを、さっきの不動産の話の50倍くらい
情熱的に語った。

「色んな事があって、結局シカゴにある店をたたむことになったけど、
やっぱり辛くてね。いつまでこんな状態にあるんだろう、
これから自分はどうなるんだろうと途方に暮れてたよ。
最後に、店のシャッターをガラガラって下から開けて
自分が外に出てくるとね、シカゴの真っ白な月が見えるんだよ、
ちょうどそのシャッター上げた辺りに。
そうすると、突然理由もなく涙がボロボローって出て来たりした。
あの冬の月、忘れられないなぁ。」

言葉を紡ぎながら、ついさっきその月をとらえたみたいな
きれいな目をするので、こっちもなんとなく目の辺りがじわんとした。

「そうやって、ずっと自分じゃ抱えきれないような不安要素を持ったまま
走り続けたけど、結局もう一度自分を建て直そうって決めて、
大学院に行って。それで日本に帰ってきて、今はこうして仕事もあるし
ハッピーに暮らしてる。
やっぱり根幹は、五体満足で、毎日をキチンと織ってゆける仕事があって
食べて行けて、ってそういうことだから。

辛いこと、嫌なことっていっぱいあるけど、それを繰り返して
その先に自分なりに達成感とか、喜びがあるならいいと思う。
僕もあの日々があったから今の自分がいるって思う。
みんなそう言うでしょ、辛いことがあるときに、一番成長するって。
でも、やっぱり人間だから、ずっと自分のことを認められないような状態に
置いておくのは、良くないよね。

本当に嫌なことなんて、本当はなくて、それは自分の心の次第だけど
どうしても先が見えないようなら、やっぱり自分がやりたいこと、
自分が好きな事を、やりたいだけやらなきゃね。
長くそこに居続けて、それをやり続けても、ハッピーに思えないのは
神様が『それはもうやらなくてもいいよ、好きなことやりなさい』って言ってくれてる
サインなんだと思う。
だってくすぶってばっかの時間を長く過ごすには人生は短すぎるよ。」

最後の文章は、いかにも英語を日本語に訳したみたいで
可愛らしいなとか思ったけど、彼とその日、突然ウナギを食べたこと自体が
他の何でもない、神様からのメッセージだなと思ったので、
そう、伝えた。

そうやって、突然交わる人生の線と線には
きっと必ず何かの意図があって
そんな隠れたメッセージを大切に、自分の人生は色を織り成してきたなと思う。

さんきゅー神様、素敵なメッセージ、そしてウナギを。

私達は、うんうんと肯きながら、デザートに出てきた
半分凍ったライチを指で弾きながら、
今度はみんなを誘ってビアガーデンでも行きましょうと
ちょっと夏らしい企画をしてから
混んできたお店を後にした。
by akkohapp | 2007-08-03 22:37 | 花鳥風月