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録。


by akkohapp
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noteI: 「アイデンティティーの模索と他者概念」 


『  ヨーロッパの植民地支配によって客体化されたカリブは、
独立という外からの力によって自動的に主体化されたのではない。
・・・・・・このことは、裏返せば、「自分は誰なのか」というと問いへとつながる。
すなわち、アイデンティティーの問題である。大まかにいって、これには三層ある。
1.歴史的経験を共有するカリビアンとしての「地域的」アイデンティティー、
2.ジャマイカ人やトリニダード人としての「国家的」アイデンティティー、
3.さらにはアフリカ系人、インド系人などといった「人種的」アイデンティテイーである。
これら三つのアイデンティティーは、順にまず人種から国家、
それからカリブへと拡大されるベクトルを持ち、それは自己の目線、
つまり存在する位置によって焦点が変わる。
たとえば、トリニダード人がポート・オブ・スペインに暮らす日常においては
人種的アイデンティティーが大きな意味を持ち、
もし彼がジャマイカに働きに出れば、国家的アイデンティティーが、
さらにアメリカに移住すれば地域的アイデンティティーが、
それぞれより大きな意味を持つようになるのである。
  このことは同時に、「自己」の位置に応じて位相を変える「他者」の概念を想起させる。
そして、位相を挙げるごとに「他者」は減り、最後には地球人、
あるいは人間という究極の「自己」アイデンティテイ-へと収斂するのである。
言い換えれば、それは
「独自性を追求し続ければやがて普遍性に達する」
という本質を提起することにもなり、その意味でカリブの、
たとえばインド系人によるアイデンティティー模索の過程は、
われわれが日本人としてのアイデンティティーを再確認するうえで、
あるいは一人の人間としてのありようを探るうえでも、
重要な示唆を与えることになるのである。』







『カリブ文学研究入門』 
236頁 「カリブ文学研究の現代的意義」
山本 伸 
世界思想社 2004年
by akkohapp | 2005-10-18 21:47 | 花鳥風月