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録。


by akkohapp
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あのころ

ひざ小僧を抱いて、階段に座って遠くを眺める少女、
腕を骨折し包帯を巻いている猫、
モスグリーンの荒れた海の上で本を読むビジネスマン・・・
懐かしいような淋しさと、
よく覚えているような孤独感に包まれた絵が続く。

ミヒャエル・ゾーヴァによる挿絵と
那須田淳氏による文章によって構成されている
『少年のころ Kindheit』(小峰書店)は
少年、少女の頃を通り過ぎた、
それでもまだあの頃の感覚をどこかで覚えているような
大人のための絵本だ。

子どもの頃、何の前触れもなく、けれど確固たる存在感で
「死」や「孤独」はいつも突然私に迫った。
あのころってどうしてあんなにそういうものに敏感だったんだろう。
そういうものから、最も遠いところにいたはずなのに。

小学校3年生、3学期の終わり、具合が悪くなって保健室に行った。
保健の先生はすぐ戻ってくるから、と言ってどこかへ行ってしまい、
まだ冬の匂いがする保健室の中で動いているものは、
保湿機の音と先生が残していったホットカルピスの湯気だけだった。
私はベッドの上で、保健室の白い天井を見つめながら
校庭から聞こえる先生や他の子ども達の声を聞いていた。
いつも、そういう時だった。
「それ」がやってくるのは。
この世で自分は一人で、
いつか
お父さんも
お母さんも
おばあちゃんも
おじいちゃんも
妹も
みんな死んでしまう日が来るということ、
生まれてきたけれど、
いつかは死ぬのだということ、
そんなことにハッと気がつき、
猛烈に怖くなるのは。
糊の利いた保健室の布団を口元まで引っ張り上げて
突然襲う「それ」に耐えた。

思春期になるにつれて、そんな大それた恐れや不安、それ自体は
次第に私の中から色を薄めて行ったけれど
あんな大きな恐怖や不安に時折包まれていた
子どもの頃の自分の風景は、まだ記憶している。

『少年のころ』は、あの頃に感じていた「それ」や
あの頃私が見ていた情景を浮き上がらせる絵本だ。

挿絵を担当したミヒャエル・ゾーヴァ氏は
映画『アメリ』の美術担当で、アメリの部屋の中に飾られていた
可愛らしいけれどちょっとスパイスの効いた不思議な絵は彼によって描かれたものだ。

子どもの頃の情景、それは人それぞれ違うもののはずなのだけど、
例え自分のしたことのないこと、見たことのないものを
目の前にポンっと出されても
なんとなく、
「ああ、それよく覚えてる!懐かしいよね」
と瞬時に共有できてしまうのは何故だろう。
「子ども」であるというだけで、
みんな何か同じものでつながっていたからなのかもしれない。




『少年のころ』より抜粋

-隠れ家
子どもの頃、
押入れに隠れるのが
好きだった。
本とお菓子を持って、
もぐりこむこともあったし、
ただ目をつむっている
だけのこともあった。
そんなとき、
押入れの中は無限に広く、
いつも時間は止まっていた。

あのころ_a0007479_12112867.jpg
by akkohapp | 2005-08-27 12:10 | Art& Music