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カテゴリ:大切な人( 16 )

3年

眠くて眠くてたまらない11月の夜の暮れ。
もうベッドに入って、明日着てゆくシャツにアイロンをかけている夫の背中を見ながら
ウトウトしかけていたら、ラジオから懐かしい曲が流れてきた。
あ、好きな曲だ、と思ったのと同時に
トロトロと彼に話す。

この曲を好きだった私の友達、突然亡くなったんだよねぇ。

え?突然?原因は?と聞き返す彼。

うん、よく分からなかったけど、眠ったまま、ある日突然。

東西から友達が集まって、皆で新幹線に乗ってお葬式に行ったのだ。
雲ひとつない青空と、読経の声があまりにもミスマッチだった。

ちょうど、この時期だったよそういえば、と話す声と
アイロンのスチームのコォーという音が重なる。
安心する音だ。

ちょうどこの時期、と自分で言ってみてあまりにも気になって
自分のブログにアクセスしてみる。

きっかり3周忌だ。
一日もブレずに、この日だった。

何か伝えたかったんだよ、と3年前には出逢いもしていなかった夫が言う。

過ぎ行く時間と、伸び行く時間、
時に重なり、交わり、また線を延ばす。


これからも、見守っていて下さい。


Seize the Day
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by akkohapp | 2007-11-20 14:11 | 大切な人

Gotanda Graduation

ようやく、終わって、擦り切れてテカテカになったスーツを着ない朝が来る。

ニュートラルな自分に戻ってみると
いかに色んなものを抱えて走ってきてたかが分かって
長距離ダッシュしてきて、ゴールした後にすごい息切れと一緒に
大声で泣きたいみたいな気分だ。

たくさん私の涙を吸い込んでくれたベッドもシーツを剥がして
ダサいマットレスがむき出しになってみると
なんか可愛らしい。
で、このダサいマットレスの上で最後にわんわん泣いて
この部屋を去る。

70人の男性の中で、総合職の女ひとり、男みたいに働いたつもり、
だけど全然男にはなれなくて
感情の波に振り回されず、一歩引いてしまう逃げが全くない彼らを
ひたすら凄いと思っていた。
凄い、って凄惨、っていう字にも充てられるくらいだから
本当にすごい。

11時の電車の中で昨日と同じ擦り切れたスーツを
毛布にして一時間眠りこける彼ら、
家族に指摘される最近薄くなった頭を気にして
お酒の場では血圧やメタボ指数を気にしながらもやっぱり唐揚げが外せなくて
鼻の頭に汗を浮かべて
やれなんとか部長、なんとか次長と肩書き順にEメールのあて先を並べることが大切で
そして夜の12時からは娘の幼稚園受験の願書を取るために校門の前に並んだり
接待ゴルフ、マージャン、風俗、全部全部こなす彼ら、
彼らこそ本当の男たちで、私を守ってくれた本物の戦士だった。

・・・と思う。


男みたいになんて働かなくて全然良かったのに
それもそれで70人の男性を周囲に
女性らしさも保ちながら、タフに働くのはなかなかの上級テクが必要だったんだと思う。

できなかったなぁ。
壊れたよなぁ。

職場から去った今、何がしたいかって
華やかな色のカーディガンを着たい。
スカートを履きたい。
髪の毛をもっと伸ばしたい。
猫みたいに撫でてもらいたい。

ホントはジーンズとTシャツが一番好きで、
髪の毛だってずっと短かった。
だから相当溜まってたんだと思う、
女になりたい欲求が。
オネエみたいだけど、マジだ。

振り返れば振り返るほど反省ばかりだ。
毎日会う周囲の人を大切にすることが
いちばん大切でいちばん難しいんだ。

でも、これはこれで良かった。

ガサツ街道まっしぐら、女放棄一年半、
でもメタボ戦士たちに可愛がられ
自分と一緒に悩む若手の同僚に支えられ
ものすごい人間ドラマをお腹いっぱいかき込んで
満腹になったところ。
栄養もついたことだから、ちゃんと体内に行き渡らせて
これから会う未知の人たちに分けられることができますように。
これまでに支えてもらった人たちに、お返しすることができますように。


So....what's comin NEXT????
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by akkohapp | 2007-11-02 12:08 | 大切な人

結婚しました

3月はまだ寒く、暗く、書いたものをここに載せる自信もなく
フォルダーに残したままの文字でしたが、
決心は溶けることはなく、
9月30日、無事入籍しました。

今後ともよろしくお願いします。
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by akkohapp | 2007-11-02 12:03 | 大切な人
彼はいつも、ワイングラスを丸く包み込む時の手つきで、私を扱う。
とても上品な手のしぐさが、最初会ったときから好きだと思った。
ユラユラとグラスの中で揺れるようなワインのような気持ちになりながら
小さな頃に母親に撫でられたときの記憶を取り戻す。
そう伝えると、小さく笑って「じゃあお母さんにもなってあげる」と
やさしい目で言った。

Grand Central駅構内にあるワイン屋で買った白ワインは
鳥カゴの中にオレンジ色の金魚が入っているオーストラリア産のもので
果物っぽさがとても美味しくてあっという間に空けてしまった。
マスカット色の透明の水を、ゆっくり揺らすグラスを包む手。

いい年なのに、面白いくらい感情を揺らし合うこのつながりを、
心から愛おしく思う。
いい大人が、2人して他愛ないことで口ゲンカを繰り返し
それでも求め合う求心力を、心底大切にしている。


Coney Islandでは、レトロを通り越して、ちょっと怖いくらいの遊園地で
グルグル猛スピードで回る観覧車に乗った。
例のごとく、何かで口ゲンカをしていたので、
私が10ドルを出して、高すぎるよとボヤく彼を半ば強引に赤い鉄格子の箱の中に押し込む。
ユラユラ揺れながらてっぺんまで上ると、左手には大西洋、
右手にはブルックリンのプロジェクト群がそびえ立つ。
その向こうに見えるのがマンハッタンをつなぐブルックリンブリッジだ。

キャーキャー叫びながら、仲直りをした。

海沿いに並ぶ売店で、Salt Water Taffyを買う。
キャラメルを長くしたみたいなカラフルなそれを、flavorを探り合いながら
口の中に放り込む。
バナナと思ったらレモンで、
ミントと思ったらシトラスで、
何だか人と人の出逢いのようだ。

大西洋沿いを、強い潮風を受けながら歩く。
彼はもう4コ目のtaffyを口にほおばっている。
プロジェクトの合間にある公園では、ハンドボールに興じる若い人たちや
イタリア語でおしゃべりに花を咲かせる老人たち、
浜辺ではしゃぐ黒人の学生たち、
様々な人種がゴチャゴチャに交じり合いながら、ゴチャゴチャに色んなことをして
晴れた午後の時間を刻んでいた。
それぞれの人たちを観察しながら、いろんなことを言い合い、
ケンカをしたことなんて嘘のように、手をつないでデッキの音を鳴らしながら歩いた。
時々あどけない顔で笑う顔が、少年のようで、私も子どもみたいに笑う。
海辺では、誰もが優しくなるのかもしれない。

ロシア語らしき看板を掲げたレストランを見つけ、
気がつくと周囲の人たちは皆寒い大陸の言葉を話している。
こんなところにロシアの人たちのコミュニティーがあったんだ、と驚く彼。
一緒に新しいものを発見すると、とても嬉しくなる。
海辺から離れ、街のほうに向かって歩く。

どこの国の言葉か分からない色とりどりの看板にあふれた街は
夕暮れの買い物時とあって活気付いている。
ユダヤ教会、シシケバブ屋、ダンキンドーナツ、ロシアンマーケット・・・
カラフル街角に、Beautifulを連発する彼。
こればっかりは、ニューヨークじゃないと味わえないね、と繰り返し言う。
本当に、その多様性は美しい文化のパズルだ。

彼の手を引き、入ったベーカリーは、ロシアにあるそれを
そのままcutしてブルックリンのその一角にpasteしたよう。
想像もつかない味を、美味しそうに魅せているパンの間を
二人興奮気味に見て回った。

何種類もあるピロシキの味を尋ねようと、
これは?これは?とキャッシャーに座っているおばあさんに聞きまくると、
最初の2個は答えてくれたが、その後は呆れた趣でこちらを見た。
床の上では、ロシア美人みたいなしなやかに美しい猫が、
セクシーに横たわっている。

ようやく選んだいくつかのパンを、奥のテーブルでコーヒーと一緒にいただく。
おばあさんは、何故か結局私たちを気に入ったとみて、
わざわざ丁寧に豆から挽いたコーヒーを淹れてくれる。
あまり英語が通じないので、こちらも日本語、英語とゴチャゴチャにお礼を言う。
ありがとう、とかおいしい、とか、そういうシンプルで
あたたかな人間の交わりは、いつも簡単に言葉の壁を突き抜ける。

二人して興味津々に店内を観察しながら、パンをかじる。
当たり前のようにおいしい。
ひっきりなしに入ってくるお客さんは、それぞれに違う肌の色、違う言葉を話しながら
活き活きとパンを選び、カウンターへ運ぶ。
誰にでもロシア語で対応し、全く同じトーンでテキパキとパンを売るおばあさんの
プロフェッショナルっぷり、かなり格好良い。

接客に追われるおばあさんに、もう一度お礼を言い、
また手をつなぎ、店を出ると、
マンハッタンへ戻る汚い地下鉄の駅の階段を駆け上った。

Brooklyn, Brooklynという彼の歌声に、私の笑い声が重なる。



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by akkohapp | 2007-08-22 21:16 | 大切な人

Black Eyed Beauty

「ただいまー」

ようやく覚えたオートロックの暗証番号を押して
ドアを開けると
おかえり、と迎えてくれた彼。

昨晩したケンカの後遺症はまだあるかな、と
ちょっとうかがいながら、暑いね、いっぱい汗かいちゃったよと
部屋の中に入る。

赤坂見附のマンションに引っ越してきてから
もう一週間くらい経つ。
いつの間にか、丸の内線に乗ってこの場所に帰ってくることにも慣れた。

夕暮れになると、地下鉄を降りてから地上に出るまでの
地下道に星座のモチーフをしたブラックライトが浮かび上がり、
その下をいつも競歩の選手さながらに早足で歩きながら
マンションのドアを目指した。

今日もそうして、駆けるように帰ってきたから全身汗だくでハグもできない。

シャワーをまず浴びて、すっきりしようかなと思っていると、
「そのまま、そっち向いてて。振り向かないで!」
と背後から言われる。

何?何?と状況が読めず、あたふたとクーラーの方を見ていると、
パタパタと洗面所の方へ駆けていって、戻ってくる足音。
「振り向いていいよ」
の声で後ろを向くと、オレンジ色のカタマリが目の前にあった。

夏の色をいっぱいに吸い込んだみたいな花たちは
本当に元気で、それぞれの色でわーんと周囲に大きな笑顔を投げかけているようだ。

「昨日は、ごめん。」

嬉しくて嬉しくて、私も花に負けないような笑顔で
お礼をたくさん言って、仲直りをした。


「この花びん、持ってくるのに本当に苦労したんだよ。
ほら、ガラスがすごく薄いでしょ?だからずっと両手に持って運んできて
汗だくになって大変だった。」

そうやって笑いながら嬉しそう。
「インスピレーションで選んだんだーほら、この曲線がキミらしいでしょ。」

とても滑らかな曲線を、繊細ないガラスで描くその花びんは
幸せをたくさん活けられるような大きなもので、その寛大さが
私をとても安心させた。

ありがとう、ありがとうと繰り返して、
その花びんをシンクに置いて蛇口をひねる。


      -ガシャ


ガシャ??
少し斜めになっているシンクの中で、
それは傾き、無残に割れた隙間を水が流れている。

思わず声を上げると、彼も飛んできてうわぁ、と声を上げる。

一瞬にして、花の色が霞み、笑みが顔から消えてしまう。

運ぶの大変だったけど、喜ぶ顔が見たくて、とついさっき言っていた彼の声が
まだ聞こえるようだ。

追い討ちをかけるかのように
うむ、、、花びんが割れるのは、縁起が悪いって言うよね、なんて
意地悪なことを言う。

何度謝っても、割れてしまった花びんは元に戻らず、
永遠なる曲線はギザギザの欠片になってしまった。
初めての花束だったのに。

店員さんと親しげに言葉を交わしながら
花を選んでいる彼の姿や
迷った挙句、花びんも買うといって高いところにあるそれを
とってもらっている時の横顔や、
見てもいない絵がくるくる頭の中を巡って、悲しくなった。

ごめんね。


結局その後、お詫びの気持ちをこめて、
もうひとつ小さな花びんとカラーを二本買い、バスルームに置いた。

黄色いそのカラーはBlack Eyed Beauty。
花の奥に黒い斑点があるそれは、
なかなかエレガントに夏を演出しているようで気に入った。

割れてしまった花びんは元には戻せなかったけれど
その子たちが残りの私たちの夏を彩る花になった。


あれから、一年が経った。
仕事帰りに、ふと花屋の軒先をのぞくと、目が合った。
エレガントな佇まいの中に凛とのぞく黒い瞳。
一年ぶりの再会に嬉しくなって、薄黄のそれを二本買って家路に着く。

完全な曲線なんて全然描けないデコボコの私たちは
それでも一年という弧円をいびつに、でも確実に辿った。
それは想像もつかなかったスピードで、
割れた花びんのジンクスに捕らえられる暇さえなかった。

もっともっとたくさんの花を生けられますように。
あのオレンジ色の笑顔をもっと見せ合いられますように。

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by akkohapp | 2007-08-09 20:35 | 大切な人

空港にて

  ・・・アメリカン航空・・・便、東京行きのご搭乗お手続きを開始いたします


受話器の向こうからはいくつかの国の言葉で、ボーディング開始を告げる
アナウンスが聞こえる。

  attention please....passenngers....
  アメリカン航空・・・・ご搭乗・・・・いたします・・・・

ニューヨークJFK空港の様子が目に浮かぶ。
あの天井から光がたくさん差し込むターミナルで
彼はスーツケースを抱え、雑誌でも買って
携帯を片手に私とこうして話しているのだろう。

「昨日は」

大変だったんだ、と疲れた声でつなげる。

「姉が子どもたちとやって来て・・・
姉にはもうずっと長いこと会っていなかったんだけど・・・
お金のことばっかりだよ。
久しぶりに会っても、日本での生活について聞くわけでもない、
僕がどんな仕事をして、どんな人にあったのかなんて興味の対象じゃない、
とにかく、僕の後ろに透けて見えるのはお金だけで、
そうやって自分の人生の重石を、いとも簡単に僕に乗せる。
引越しを手伝ってくれるわけでもない、
僕の身を案じてくれるわけでもないけれど、
困るとそうやってやって来て、僕を悲しくさせる。」
結局、子どもたちのためにピザ取ったけど
僕は後で泣いてしまったよ。」


そんな風に言われてしまうと、
もう何も言えなくなる。

昨日電話が来なくて、出発の前夜なのに連絡がとれないことで
めいっぱい溜まっていたイライラを、どこに吐き出したら良いのか
分からなくなる。

私が対峙しなければならない問題とは
まったく種類が異なる問題にぶつかっている彼に
私はどんな役目を負うことができる?
役目をもらうことすらできないような気がする。

そこにあるのは家族というとてもミクロで内的な問題なのだが、
それを覆いこむように取り囲む様々なコミュニティーの問題
グループが抱える課題を多く知っているからこそ
もっと複雑な気持ちになる。

どうしてこんなに階段のステップが違ってしまうんだろう?
チ・ヨ・コ・レ・イ・ト、パ・イ・ナ・ツ・プ・ル
と一緒に一段目から始めたはずなのに
どうして遥か上の段にいる人と、まだ三段目くらいにいる人と
こんなに差が出てしまうんだろう?
同じ家族なのに。


受話器の周りがにわかに騒がしくなる。
搭乗時間だ。

「これからボーディングだから。」

「うん、わかった。
成田のゲートで会おうね。」


結局そう言って、電話を切った。

これから14時間のフライト、
あまりにもたくさんのことを考えすぎなければいい。
映画でも見て、ワインでも飲んで果てしない昼の空を
一気に飛び越えて東京においで。
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by akkohapp | 2006-11-05 09:23 | 大切な人

Honey Butter Sunset

ブルーの水に白い花が浮かぶ待ち受け画面が消えて、
着信を知らせる緑色の背景の中に彼の名前が泳ぐのが見える。
彼の方から電話があるのは沖縄に来てから初めてのことだ。
通話ボタンを押し、耳に電話を押し当てると
自然に弾んだ声がお腹の底から出てきた。

「もしもし?」

東京に戻るまで残り一日を控えた最終日の夕方だった。

大好きな友達は西日がめいっぱい差し込む部屋で、
睫毛に落ちる黒い影に似合うピアスを箱の中から探し出している。

東京から届く彼の声を、鼓膜で甘く受け止めながら
彼女が金色の細いフープを手にするのを見る。
つけっぱなしのTVからは、夕方のニュースが流れている。

私たちは汗だくになりながら南へのドライブから帰って来て、
氷がたくさん入ったルイボスティーを二人でゴクゴク飲み
シャワーを浴び、これから北谷のアメリカンビレッジに新作の映画を見に行く予定だ。

片手でワンピースの裾をいじりながら、自然とテレビの音を避けて
いつの間にかドアを開けて、部屋の外に出る。
その途端、風がスラっとノースリーブの肩にぶつかってくる。
アパートの三階の廊下からは、遠くに沈む太陽が見える。
地元っ子である友達が誇らしげにさらすチョコレート色のそれには
まだまだ敵わないが、たった四日間の滞在にしては結構がんばった。
すっかり夏色に染まった自分の肌を見つめながら
彼と話を続ける。

たいわいもない。
昨日つながらなかった電話の理由を一生懸命説明している。
どうでもいいのに、そんなの。
どうでも、いいよ。
流れるような彼の言葉は、いつの間にかビジネスの方向へ向かう。
ヘッジファンド、とか、ニューヨーク、とか。
この場所で聞くそれらの単語は、全部魔法の呪文みたいだ。


目の前では太陽が黄金の輪郭を誇らしげに揺らしながら
空の色を変えてゆく。
オレンジとブルーの組み合わせは、全然似合わなそうなのに
どうしてこんなにも一つになれるのだろう。
それは、コントラスト、対照、ではなく、ハーモニー、融和、だ。

私の声と、彼の声は、どこまで重なっているかな。

オレンジとブルーは、もっと深く混じり合いながら、
その一体感を段々と広げながら空全体を巻き込んでゆく。

声だけじゃなくて、もっと混じり合えればいいのに。

彼の言葉に「。」が付くのを待って、唐突に言う。


「今太陽が沈んでくよ。海の中に。私の目の前で。」

その様子を「バターが溶けるみたい」と呟いた時の友達の横顔の美しさを思い出す。

"Just like golden honey."

言ってみてから、頭の中にカラオケ屋なんかで出てくる、アイスクリームの乗った
ハニーバタートーストが香ばしい匂いを漂わせながら登場してしまって
しばし沈黙してしまう。
二人して沈黙を聞き合う。

「俺も、そっちに行ければよかったのに。
会いたいよ。
言わなかったけど、けっこーマジに会いたいよ。」

目を細めながら、ハチミツの上を流れてゆく言葉を聴く。

「明日、朝7時10分に羽田だって?迎えに行っていい?」

だって仕事でしょ、と言うと9時出社だから間に合うよ、とか言う。


ほどなくして、用意を終えた友達が車のキーをチャラチャラ言わせながら
ビーチサンダルでペタペタ玄関から出てきたので、
電話の向こう側に向かって、じゃあ明日ね、I miss you, too と言うと、
今日のハチミツ最後の一滴が海に飲まれた。
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by akkohapp | 2006-08-04 11:05 | 大切な人

ありがとエンジェル。

何杯のソフトドリンクをお代わりしたのだろう。
テーブルの上は、グラスがかいた汗でかなり大きな水たまりができていた。

仕事が終わったのは8時を過ぎていて、
彼は1時間以上もファミレスで私を待っていてくれた。

「元気になるイベントがあるよ」

そう言って、薄いmp3プレーヤーのヘッドフォンを渡してくれた。
聞こえてきたのは、ミュージカル"Rent"の主題歌"Seasons of Love"だ。

「あぁ、懐かしいね!」

参加していた学生団体で、その年のテーマソングになった曲だった。

525,600 minutes, 525,000 moments so dear.
525,600 minutes - how do you measure, measure a year?
In daylights, in sunsets, in midnights, in cups of coffee.
In inches, in miles, in laughter, in strife.
In 525,600 minutes - how do you measure a year in the life?
How about love? How about love? How about love? Measure in love.
Seasons of love.

一年間は愛で測ろう!一年間の単位は愛なんだ、というメッセージの曲。

けれど、愛はどうやって測るんだろう。

落ち込んでいる私を気遣って、仕事の後にこうして待っていてくれた彼の優しさは
空になったジュースのグラスの数だったり
充血した目で笑って
「全然大丈夫だよー!」と言ってくれる声の明るさではかるのかな、
測れないな、と思いながら、待っていてくれたお礼を重ねて言う。

「いいんだってば!それより、これから、映画、見に行こう!」

その一言で、一緒に映画"Rent"を見に行った。

作品に登場する人物たちのカラフルさに、心が慣れるまでに少し時間がかかった。
そりゃそうだよな、いつも黒のスーツと白いシャツしか着てはいけない世界にいるのだから。
エンジェル、エイズとの闘い、ミミの孤独、そしてニューヨーク、
Rentの世界は、一生懸命そのときを生きることの大切さを教え直してくれる。

「今日しかないとしたら?明日死ぬとしたら?
キミはどう動く?どう生きる?誰と過ごす?」

元気で若い、少なくともそう信じている全世界の人間共通のテーマだ。

ほとんどの確率で、私は明日死なないけど、
100%の確率で明日という時間はあさってが来ると同時に死んでしまう。
なのに、自分はどこにいるんだろう。

朝の通勤電車の中で見たオーストラリア観光局がそこらじゅうに貼っている
"so where the bloody hell are you?" (意訳:「あんた、そこで何してんの?」)
というポスターを見て、突然泣けてきたのを覚えている。

どこにいるんだろう。何してるんだろう。


二時間半はあっという間に過ぎ、やっぱりエンジェルはエイズで死んでしまった。
けれど最後に暗くフェイドアウトしてゆくエンジェルの顔は、
女性的でも男性的でもない、人類的な美しさと高潔さを湛えていて、本当に美しかった。


お互い泣き疲れて、上映終了後は口数も少なく、東京駅まで歩いた。
夜が時空を変な風に曲げているようで、大手町が仮想現実のゲームの世界みたいだった。
駅に着くまでの間、何度となく映画の歌を二人でハミングした。


本物の優しさを持っているということは、とても強いことだと思う。
そんな優しさと強さに支えられてこそ、自分はヘナチョコになれるのかもしれない。

悲しいので泣いたんじゃない涙は温かく、夜は深く、
私は動き続ける自分の心臓と、喜怒哀楽の波とを抱えながら
ビルの向こうから確実にやってくる明日をまたちゃんと迎えられる気持ちになった。

ありがとね。
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by akkohapp | 2006-06-25 02:36 | 大切な人

back to my country

11月18日

ガルーダ機の丸い窓から、優しいピンク色の光が座席までいっぱいに届く。
期待が大きく傾くと、窓の外で青い波が揺れているのが見えた。
5年。
この国で中学から高校まで過ごした以上の時間を、
いつの間にか日本で、アメリカで送り
またここに戻ってきた。
妹や友達が多く言うほど、またここに戻ってきたいと思っていたわけではないけれど
時々延々と伸びる時間軸をふと振り返ると、自分を育ててくれたこの国に
想いが舞い戻った。

まさに学園天国だった日本人学校で過ごした甘い時間。
JISに通ったあの二年半。
今思えば、これが私ですと今堂々と外側に公言できる要素のうち
とても大きなパーツを作ってくれたのが、インドネシアだった。
あの時間があったからこそ、会えた人たちがいる。
つながった人たちがいる。

機体はスムーズにデンパサールの滑走路にすべりこんだ。
何も変わらないインドネシアの色をした空、雲の模様、
椰子の木の茂り方、赤土の屋根、島、それを囲む海。
子供の頃から馴染みのある白い花が咲いている。

聞く音楽も、今回一緒にこの地の土を踏む友達も、一人になったときに思い浮かべる人も
五年前には出逢ってもいなかった。
それでも、こうして元々のものと、新しいものを両方詰め込んで、
私はここに戻ってきた。
そんな風に、自分さえも想像しなかった人生の線を、
私が自由な方向に描き続けていた5年の間も、
インドネシアはそのなだからな輪郭と、大らかな優しさを何一つ変えずに
ここにいてくれたのだと思うと、
忘れかけていたくらい自然に、私はこの国を愛していたのだし、
この国の優しい人たちに愛をもらって育ってきたのだと気付く。

プラプラとしながらヒマそうに店番をする売り子たち、
平気で遅れる飛行機、
デンパサール飛行場の中を一歩一歩歩くたびに
ものすごいスピードでこの国の空気の中での呼吸の仕方を思い出した。



ただいま。久しぶり。

また迎えてくれて、ありがとう。
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by akkohapp | 2005-12-30 12:08 | 大切な人

楽庵

国際電話特有の、プツッ、プツッ、というノイズは、
いつも私に海底を伝う一本の黒い電話線を連想させる。
何度国際電話をかけても、その音を聞くたびにちょっと緊張する。
暗く深い海の底で、孤独に伸びた電話線をつたって
私の発信は彼のいる国にようやく届く。

一度目は出なかった。

もう一度だけかけてみる。
なんでこの人なんだろう。
国番号から始まる長い電話番号を
間違えないように指でたどりながら一つ一つボタンを押す。
世界のどこにいても、そうやって、海底を伝うコードを辿って
彼に電話をかけている。
プツッ、プツッ、

"Hello?"
その一声。
声を出そうと思ったけど、鼻がつまって息が吸えない。
"Hello"
潰れそうな声で、一言そう言う。
"Who is this?"
こんな声じゃ、分かってもらえないのは当然だ。
名前をやっと伝えたら、
静かな静かな声で、ゆっくりと、どうしたの?って尋ねてくれた。
その声を聞いたらますます泣けてきた。

最初は一つのことで落ち込んでいても、
深みにはまるとアレもコレも、全部ひっくるめて悲しくなってくる。
子供の頃、母に怒られながら「だいたいあなたは、あの時も・・・」と
叱られる種が増えてゆくことに不平を感じていたけれど、
年を重ねて自分の感情の動きが母のそれととてもよく似てきたことに気がつく。
本人すら何に怒っているのか、悲しいのか訳が分からなくなってるのだから
聞いてる相手はきっともっとわからない。
それでも、そんなことおくびにも出さずに、根気よく耳を傾けてくれて
ゆっくりと糸をほどいてくれた。

前から思っていたけど、この人の声には何か特別な力があると思う。

雨が好きで、クッキーが好きで、紫色が好きな音楽の神様。
ジョージタウンにいた頃は、音楽のダウンロードに一晩かけて
でっかいチョコレートチャンクが入ってるクッキーをかじりながら
よく朝まで一緒に話した。
くだらないことも、大事なことも、悲しいことも、嬉しいことも。

そういう過去を全て飲み込んだ声だから、そう思うのだろうか。
その声を聞いていると、安全な庵の中で優しさに守られている気分になる。

一年に200通以上のメールを交換して、泣いたり泣かせたりしながら
今もこうして黒い電話線の向こうで繋がっていてくれる。
そんな友達を心の底から大切に思う。


彼が住むその異国の街には、桜の木がないという。
東京でもようやく開花した、淡いピンク色のその花びらを
いつもありがとうという言葉に添えてエアメールで送ろう。


ARIGATO... as always.
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by akkohapp | 2005-04-04 21:35 | 大切な人