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Honey Butter Sunset

ブルーの水に白い花が浮かぶ待ち受け画面が消えて、
着信を知らせる緑色の背景の中に彼の名前が泳ぐのが見える。
彼の方から電話があるのは沖縄に来てから初めてのことだ。
通話ボタンを押し、耳に電話を押し当てると
自然に弾んだ声がお腹の底から出てきた。

「もしもし?」

東京に戻るまで残り一日を控えた最終日の夕方だった。

大好きな友達は西日がめいっぱい差し込む部屋で、
睫毛に落ちる黒い影に似合うピアスを箱の中から探し出している。

東京から届く彼の声を、鼓膜で甘く受け止めながら
彼女が金色の細いフープを手にするのを見る。
つけっぱなしのTVからは、夕方のニュースが流れている。

私たちは汗だくになりながら南へのドライブから帰って来て、
氷がたくさん入ったルイボスティーを二人でゴクゴク飲み
シャワーを浴び、これから北谷のアメリカンビレッジに新作の映画を見に行く予定だ。

片手でワンピースの裾をいじりながら、自然とテレビの音を避けて
いつの間にかドアを開けて、部屋の外に出る。
その途端、風がスラっとノースリーブの肩にぶつかってくる。
アパートの三階の廊下からは、遠くに沈む太陽が見える。
地元っ子である友達が誇らしげにさらすチョコレート色のそれには
まだまだ敵わないが、たった四日間の滞在にしては結構がんばった。
すっかり夏色に染まった自分の肌を見つめながら
彼と話を続ける。

たいわいもない。
昨日つながらなかった電話の理由を一生懸命説明している。
どうでもいいのに、そんなの。
どうでも、いいよ。
流れるような彼の言葉は、いつの間にかビジネスの方向へ向かう。
ヘッジファンド、とか、ニューヨーク、とか。
この場所で聞くそれらの単語は、全部魔法の呪文みたいだ。


目の前では太陽が黄金の輪郭を誇らしげに揺らしながら
空の色を変えてゆく。
オレンジとブルーの組み合わせは、全然似合わなそうなのに
どうしてこんなにも一つになれるのだろう。
それは、コントラスト、対照、ではなく、ハーモニー、融和、だ。

私の声と、彼の声は、どこまで重なっているかな。

オレンジとブルーは、もっと深く混じり合いながら、
その一体感を段々と広げながら空全体を巻き込んでゆく。

声だけじゃなくて、もっと混じり合えればいいのに。

彼の言葉に「。」が付くのを待って、唐突に言う。


「今太陽が沈んでくよ。海の中に。私の目の前で。」

その様子を「バターが溶けるみたい」と呟いた時の友達の横顔の美しさを思い出す。

"Just like golden honey."

言ってみてから、頭の中にカラオケ屋なんかで出てくる、アイスクリームの乗った
ハニーバタートーストが香ばしい匂いを漂わせながら登場してしまって
しばし沈黙してしまう。
二人して沈黙を聞き合う。

「俺も、そっちに行ければよかったのに。
会いたいよ。
言わなかったけど、けっこーマジに会いたいよ。」

目を細めながら、ハチミツの上を流れてゆく言葉を聴く。

「明日、朝7時10分に羽田だって?迎えに行っていい?」

だって仕事でしょ、と言うと9時出社だから間に合うよ、とか言う。


ほどなくして、用意を終えた友達が車のキーをチャラチャラ言わせながら
ビーチサンダルでペタペタ玄関から出てきたので、
電話の向こう側に向かって、じゃあ明日ね、I miss you, too と言うと、
今日のハチミツ最後の一滴が海に飲まれた。
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by akkohapp | 2006-08-04 11:05 | 大切な人