人気ブログランキング | 話題のタグを見る

録。


by akkohapp
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

通学路

朝9時。
ラッシュタイムのDC。
チャイナタウンのステーションは、健康的な朝の空気で満ちている。
朝シャンで湿り気のある金髪をなびかせたスーツのおねえさん、
フリーペーパー"Express"を読みながら次の電車を待つビジネスマン、
分厚い物理学の教科書を抱えた学生・・・

イエローラインからグリーンラインに乗り換える。
手すりに寄りかかって、電車がプラットフォームに滑り込むのを眺めている。
薄暗い構内に、柔らかい黄色のライトが点滅して、間もなく電車のドアが目の前で開く。
降りてくる人たちの肌は、見事なチョコレート色だ。

路線によって乗客の人種構成が明確に分かれるのは、アメリカでは普通のことだが
目が慣れるまでは、やはりいちいち驚いていた。
ハーレムに向かうニューヨークのレッドラインも、
黒人の乗車率はかなり高いが、DCのグリーンラインはそれ以上だ。

ほとんどの乗客がチャイナタウンで降りてしまうため、
ガラガラに空いた車内に乗り込み、だいたいいつもドアに一番近いシートに一人で座る。
二駅目のShaw-Howard University駅で下車。

地上に上るエスカレーターに乗るけれど、
自分の前の段も、その前の段も、その前の段も、
乗っているのは黒人だ。
後ろを振り向いてみなくても、何色の肌をした人が
自分の後に乗っているのかは明確だ。

駅から学校までは徒歩10分。
Howard Universityのロゴが入ったカバンやノートを抱える学生に混じって
ストリートを歩く。
床屋、CD屋、サンドウィッチ屋を通り過ぎて、横断歩道を渡る。
ゴミ箱みたいな形をした新聞売り箱に35セント入れて買ったワシントンポストを
脇に抱えて、ちょっと早足で歩く。

この辺のストリートは、とにかく汚い。
ジョージタウン周辺と同じ都市だとは思えないくらい
道端に色んなものが落ちている。
捨てられたガムが、化石みたいになって無数にストリートに模様を作っている。
木曜日になると週末イベントのフライヤーが、お好きにどーぞとばかりに
その辺に撒かれている。
そういえば、横断歩道の近くには白い粉が落ちていたこともあった。
なんの粉だかは、よくわからないけれど。

そんな通学路だったけれど、
私はその朝の10分が大好きだった。
帰り道は、ちょっと物騒な雰囲気がし出して、
あまり一人で歩きたくなかった道だけど、
朝はいつも清潔で、優しかった。
9月のちょっと涼しくなった空気と、
まだしぶとく残っている夏のにおいが混じった朝の光の中、
毎日毎日一人でその道を歩いた。

床屋のおじいさんは、お客もいないのに毎朝8時台から店を開けて
奥の椅子に一人で座って、ストリートを眺めていた。
道を挟んで反対側にあるダイナーでは、朝ごはんを食べる人たちが
黒々と窓際に頭を並べていた。

人間が生きている音や匂いがたくさんしたあの道が
いつも私を学校まで運んだ。


たった10回くらいしか通わなかった通学路だけれど。
Howardでの短いキャンパスライフを思い出すとき、
いつも最初に立ち上がる風景は、
あの朝の通学路だ。
by akkohapp | 2005-09-30 20:45 | Howardってところ。