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録。


by akkohapp
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T.G.I.F. / H.B.C.U.


「今夜何も予定ないなら遊びに行かない?」
気だるい金曜の昼間、コピー室でバッタリ会ったヴァーサに誘われて
お金もないくせに頷いてしまった私。
「やった!じゃあ11時に六本木ねー!」
ってオイ!六本木かよ!!
しかも11時ってことはオール決定か・・・

ああー疲れそうだなーとつぶやきながらも
今夜着てゆく服の色ばかり考えて、そんなことをしているうちに
午後の授業が終わってしまった。

あっという間に10時。
一週間の労働を終え、たくさんの疲労感と少しの開放感を顔ににじませた
背広姿の人たちを尻目に、ヒールの踵で電車から飛び降り、
地下鉄の階段を上がれば、もうそこは金曜日夜の国だ。
缶ビールを片手に陽気に群れる白人のおじさんたち、
ブルーのドレスを着たキャバ嬢を追い越して、待ち合わせ場所に向かう。

今夜のお仲間たちは総勢10名。
全員が集まるまでに軽く1時間が過ぎるが、その間
上智の比文学部生が束となって通り過ぎて、次々と挨拶を交わし合う。
みんなすれ違うたびにお互いの装いを褒めあい、
軽やかな足取りで交差点を渡ってゆく。
六月最初の金曜日の夜が楽しいものになりますように。

最後に到着したブライアン。
赤のポロシャツとジーンズというシンプルな格好。
もっとお洒落してくるかと思ったのに。
「とにかーく!店に行こう!!ディスカウントが終わっちゃうよ!」
急かすヴァーサにくっついて、ご一行お店へ到着。
エントランス料を渡して、黒いカーテンの奥に進む。

ところが、黒いカーテンの奥にあったのは、更なる黒い世界だった。
ぼんやりとオレンジ色にライトアップされカウンターの上にあるフライヤーには
School Days: HBCU graduates discount との文字が見える。
(HBCU:Historically Black College and Universityの略。)
アメリカの黒人大学卒業生のための社交イベントだったのだ。

テーブルにはレモン付きのコロナではなくて、シャンパンのボトルがズラリと並ぶ。
男たちは映画に出てくるようなクラシックな帽子を黒のスーツに合わせ、
キッチリとタイを結んでいる。
彼らが燻らす葉巻の濃厚な香りがフロア中を包み、
胸や背中が大きく開いたドレスを着こなした女たちが交わす言葉は
シャンパンの金色の泡のように湧き立っている。
キッズのためのお遊び場ではなくて、
正装した大人のための半分公式なソーシャル・ネットワーキングのイベントに
ウッカリ混じりこんでしまったことに今更ながら気がつき、
自分がここにいて良いのか、と不安になる。
それは、やや厳しいドレスコードを満たせていないことだけが理由ではない。

「ねぇねぇ。。。私ここに来てよかったわけ??
だって私HBCUのどこかに留学したわけでもないんだよ・・・?」
不安になってシャンテルを突っつくけど、
彼女は白い歯をニッと見せて笑うだけ。
「私だって違うもん!ヴァーサがお店のマスターと知り合いらしいから大丈夫だよ!
そんなことより楽しもう!」と取り合ってくれない。
だって・・・そりゃアンタは肌の色がここのコードにちゃんと合ってるけどさ・・・
纏うドレスの色以上に、肌の色のコードは私にとって意味のあることのように感じられた。


ヴァーサやエリーが在学しているHoward Universityを筆頭に、
アメリカ合衆国には多くの黒人大学が存在する。
南北戦争が終わりを告げ、奴隷解放宣言が下されてから
解放された奴隷(freedmen)から教育者を育成するための機関として発足された
それらの学校は、W.B.Du Boisら多くの黒人先導者を輩出し(Fisk University)、
NAACP(National Association for the Advancement of Colored People) など
多くの公民権確立を目指した機関が、HBCUの卒業生によって創設され、
促進されたと言って良いだろう。
もちろん、現在はそれらの大学はHistorically Black、であるというだけであり
どんな人種であろうとも入学することは可能であるが、実状的に在学生の大半が黒人である。
"BRIDGING CULTURES"といったようなスローガンがホームページのトップに
見られるのも、HBCUの特徴かもしれない。

異文化、異人種間の融和・融合が進む現在、未だに教育機関が
肌の色を表看板に出し、実際にもそれらの大学が黒人の大学となっているのは
当初不思議なことに思えた。
しかし、女子校、男子校が存在するのと同等のレベルでそれらは堂々と存在し、
人種にまつわる歴史や誇り、そして文化の尊重を基盤としながら
"Black College and University"の伝統を脈々と伝え継いでいるようだ。

考えてみれば、表看板に「黒人学校」と出さなくても、
地域によって人種間の棲み分けがされていることは明確な事実であるし
当然、小学校、高校と肌の色に偏りがある学校が合衆国津々浦々存在するわけである。
よって、大学という高等教育レベルにいたっては、
「黒人大学」という看板を堂々と掲げた上で、
アフリカ系アメリカ人が辿ってきた歴史や、合衆国における人種観形成の過程を
専門的に売りにする教育機関が出てくるのは自然な流れだろう。



・・・と、こんなに漢字が多い文章を書いている場合ではない。
深夜30分を回る頃には、肌の色も服の色も気にする場合ではないほど
フロアは沸き上がり、MCが気合を入れる暇なく、たくさんの肩が、尻がバウンスする。

黒人の女の子の体ってどうしてこんなに美しいのだろう。
細い手足と、まぁるいお尻。
すっごい時間かかっちゃった!とはにかんでいたエリーの髪の毛は細く綺麗に編まれて
清らかなおでことクリっとした目が目立つ。
スリムジーンズがモデルばりに似合うニヴェアはちゃっかりビーサンを持参していて、
いつのまにか黒いエナメルヒールを履き替えてドンドコ踊っている。
彼女達の動きの滑らかなこと。
音楽を楽しむ方法を世界中の誰よりも知っている彼女達を
心底うらやましく思ってしまう。
It's in their culture...


「ずっと疑問に思ってることがあるんだけどサ・・・」
上下に揺れるニヴェアに耳打ちする。

「ブライアンて、ゲイ?」

大きなピアスを揺らして、爆笑するニヴェアを見ながら、
疑惑が確信に変わった。

赤いポロと、片耳に光るピアス。
MTVに出てくるダンサーみたいに踊りが上手な彼は、
さっきからフロア中の視線を釘付けにしている。
こっちを見ながら、肩をぶつけてくる彼。
ちょっと格好いいと思ってたのになぁ。

でもいっか!

だって今日は金曜の夜だから!



彼の黒く光る額に、汗が流れるほどに
金曜日の夜は更けていった。
by akkohapp | 2005-06-06 00:20 | race and ethnicity