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楽庵

国際電話特有の、プツッ、プツッ、というノイズは、
いつも私に海底を伝う一本の黒い電話線を連想させる。
何度国際電話をかけても、その音を聞くたびにちょっと緊張する。
暗く深い海の底で、孤独に伸びた電話線をつたって
私の発信は彼のいる国にようやく届く。

一度目は出なかった。

もう一度だけかけてみる。
なんでこの人なんだろう。
国番号から始まる長い電話番号を
間違えないように指でたどりながら一つ一つボタンを押す。
世界のどこにいても、そうやって、海底を伝うコードを辿って
彼に電話をかけている。
プツッ、プツッ、

"Hello?"
その一声。
声を出そうと思ったけど、鼻がつまって息が吸えない。
"Hello"
潰れそうな声で、一言そう言う。
"Who is this?"
こんな声じゃ、分かってもらえないのは当然だ。
名前をやっと伝えたら、
静かな静かな声で、ゆっくりと、どうしたの?って尋ねてくれた。
その声を聞いたらますます泣けてきた。

最初は一つのことで落ち込んでいても、
深みにはまるとアレもコレも、全部ひっくるめて悲しくなってくる。
子供の頃、母に怒られながら「だいたいあなたは、あの時も・・・」と
叱られる種が増えてゆくことに不平を感じていたけれど、
年を重ねて自分の感情の動きが母のそれととてもよく似てきたことに気がつく。
本人すら何に怒っているのか、悲しいのか訳が分からなくなってるのだから
聞いてる相手はきっともっとわからない。
それでも、そんなことおくびにも出さずに、根気よく耳を傾けてくれて
ゆっくりと糸をほどいてくれた。

前から思っていたけど、この人の声には何か特別な力があると思う。

雨が好きで、クッキーが好きで、紫色が好きな音楽の神様。
ジョージタウンにいた頃は、音楽のダウンロードに一晩かけて
でっかいチョコレートチャンクが入ってるクッキーをかじりながら
よく朝まで一緒に話した。
くだらないことも、大事なことも、悲しいことも、嬉しいことも。

そういう過去を全て飲み込んだ声だから、そう思うのだろうか。
その声を聞いていると、安全な庵の中で優しさに守られている気分になる。

一年に200通以上のメールを交換して、泣いたり泣かせたりしながら
今もこうして黒い電話線の向こうで繋がっていてくれる。
そんな友達を心の底から大切に思う。


彼が住むその異国の街には、桜の木がないという。
東京でもようやく開花した、淡いピンク色のその花びらを
いつもありがとうという言葉に添えてエアメールで送ろう。


ARIGATO... as always.
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by akkohapp | 2005-04-04 21:35 | 大切な人