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桜雪


目を覚ますと、車窓の外には白いものが舞っていた。

目の前には、よく知っている顔が二つニヤけている。
「無防備に寝ちゃった」
そう言った私に、
「何をされたかも知らずに・・・クックック」
と顔を見合わせて含み笑いをする様子は、中学の頃から変わっていない。
世の中は人の外見を形容する言葉で溢れているが
知り合って10年も経てば、カワイイとかカッコイイといった形容詞は
もはやその人を形容する表現力を失う。
この人たちは自分を傷つけない。
この人たちは自分の何を見せても嫌わない。
単純にその顔を、安心感を持って見つめる。
何を口にしようと、あるいは何も口にしなかろうと
そこにはほっこりと心地よい空間ができることを、私たちは知っている。


青春18切符を利用して、東京で開かれたジャカルタ日本人学校中等部の
同窓会にやってきた友人を、横浜まで見送るつもり・・・が
旅行情緒満点の東海道線のボックスシートに気が付けば三人で乗り込み
はるばる熱海まで来てしまったのだ。

睡眠、というデフラグ作業をしなければ、経験は一連の連結した波となって
海馬に襲い掛かる・・・って何のことだかワケ分からないのはこっちである。
つまりはオール明けで、記憶がごっちゃ混ぜなのだ。
数時間前に、人よりもカラスが多い新宿で煮え切らない解散をしたことが
夢のようだ。
誰もその場を去りたくなくて、「後ろ髪を引かれる想い」そのまんまで
ゆっくりと別れた。



よく通る声を持つ沖縄出身のまりこと、盛り上げ上手のまっつぁんが
中学時代に流行った曲を歌い出せば、狭い部屋の空気は
笑い声とタンバリンの音ではちきれんばかりに膨らむ。
テンションは、午前3時過ぎ、歌舞伎町のカラオケボックスの中で沸点を迎えた。

すっかり大人の装いをして、大人のしぐさをするようになったそれぞれが
10年前と同じ顔ぶれを前にして、かつてと同じ笑顔を満面に浮かべているのを見ると
自分たちが歩んできた道はso far so good,
人生は上々なんだと思えてくる。

でも、現実は、それぞれが平易な道を歩んできたというわけではない。
たった20年弱の人生ながら、それぞれが喜怒哀楽と日々向き合って
一日一日紡いできた。
新しい出逢いを幾度となく重ね、悲しい永久の別れもいくつか経験した。
それでもこうして、今日という日までに皆が繋がっていることが嬉しい。

4月から多くの仲間が新社会人として独立することになる。
学生として、社会のイザコザなんて何の関わりもなく笑ってられるのも
今夜が最後なのかと思えば、さすがに感慨深い。
それぞれが、この一瞬一瞬を脳裏に焼き付けるようにして楽しむからこそ、
火花を散らす錬金術みたいに、黄金の時間が生まれる。
隣に感じる体温を、
クシャクシャになった笑顔を
もう今では誰も呼ばなくなった私のあだ名を呼ぶ声を、
忘れないように、
たくさん心のフィルムを使ったような気がする。


桜の花びらのような
3月の雪のような
夏の花火のような

夜が終わった。




列車はゆっくりと熱海駅に到着し、
私たち三人は、見たこともないレトロな列車が次々と停まるその駅で
カウンター越しにおばちゃんと向かい合っておそばを食べた。
あったかいねーと言いながら、ふはふはお汁まで飲んでから、
おばちゃんにお礼を言って、お店を出て、
京都まで遠路を行く友人を見送った。

ドアが閉まる瞬間まで、三人で言葉を交わして、
彼が乗った車両が見えなくなるまで、私たち二人は手を振っていた。


雪はもうとっくにやんで、線路の向こう側には広い海と、みかん畑が見えた。
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by akkohapp | 2005-03-13 15:38 | 大切な人